フ
『ファウスト ヨーロッパ的人間の原型』
ふぁうすと よーろっぱてきにんげんのげんけい
小塩節·現代
ゲーテ研究の泰斗が『ファウスト』を西欧精神史の鏡として読み解いた評論
文学思想史
この著作について
ドイツ文学者・小塩節が、ゲーテ畢生の長編劇詩『ファウスト』をヨーロッパ的人間の精神史的原型として読み解いた評論である。1992年に講談社から刊行され、後に講談社学術文庫に収められた。
【内容】
第一部の学者ファウストが「初めに業ありき」と訳語を選び直す場面、メフィストフェレスとの賭け、グレートヒェン悲劇、第二部の古典的ワルプルギスの夜からヘレナ・ホムンクルス・干拓事業を経て天上昇天に至る大伽藍を、宗教改革以後のヨーロッパが抱え込んだ近代的不安と解放の運動として位置づける。著者自身のドイツ滞在体験と聖書解釈学の素養を背景に、原語のニュアンスを丁寧に汲みながら筋を追う叙述が特徴である。
【影響と意義】
膨大な注釈書群のなかで、専門研究の最前線を一般読者向けに圧縮しつつ、ファウスト的人間像をプロメテウス・ドン=ジュアン・ハムレットと並ぶ西欧の四大原型の一つとして提示した点に独自性がある。高橋義孝訳『ファウスト』を読む際の手引きとして長く参照されてきた定番書である。
【なぜ今読むか】
近代的人間像の根源を文学のなかに辿りたい読者にとって、最も信頼できる日本語の手引きである。