暗
『暗夜』
あんや
十字架のヨハネ·近代
魂が浄化される苦難の道筋を描いた神秘主義詩・解説書
宗教神秘主義
この著作について
16世紀スペインのカルメル会改革者・神秘詩人フアン・デ・ラ・クルス(十字架のヨハネ、1542〜1591)が1578〜85年頃に著した『暗夜(La Noche Oscura)』。冒頭の詩篇とそれに付された散文の解説からなる。
【内容】
フアンは魂が神との合一に至る道筋を「暗夜」の体験として描く。神への接近は心地よい光の道ではなく、感覚と精神の双方が「闇」に沈む徹底的な剥奪の経験である。この「暗夜」には二段階あり、第一は「感覚の暗夜」(外的・感覚的な慰めの剥奪)、第二は「精神の暗夜」(霊的能力・自己理解の崩壊)である。神は魂を浄化するためにこの闇を送り、魂は受動的に耐えなければならない。最終的に、すべての所有を失った魂は神との純粋な愛の合一に至る。冒頭の詩篇は「愛に焦がれた夜、私は気づかれずに家を抜け出した」という美しい表現で始まる。
【影響と意義】
テレサと並ぶスペイン神秘主義の双璧。エディット・シュタイン、トマス・マートンら20世紀の宗教思想家、メルロ=ポンティ、リクール、レヴィナスらの哲学者にも影響を与えた。1926年に教会博士に列せられた。日本でも井上洋治、奥村一郎らの紹介を経て読まれている。
【なぜ今読むか】
苦難・喪失の体験を「魂の浄化」として読み直す枠組みは、トラウマ研究や実存心理学の参照点となっている。