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消費社会の神話と構造

しょうひしゃかいのしんわとこうぞう

ボードリヤール·現代

記号としての消費を分析した現代社会論の古典

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哲学社会

この著作について

ジャン・ボードリヤールが1970年に公刊した、豊かな社会の成立とともに姿を現した「消費」という新しい現象を、記号論的に分析した代表作。

【内容】

本書でボードリヤールは、消費とはもはや物の使用価値の享受ではなく、記号としての差異の享受であると論じる。人々は商品そのものを求めるのではなく、それが指し示す社会的地位、スタイル、アイデンティティの差異を消費している。広告、マスメディア、身体、余暇、性までもが記号の体系に組み込まれ、全てが消費の対象となる。また「豊かさ」が不平等を解消するどころか、欲望を絶えず新しく生み出すことで満足の終わりを遠ざけ続けると指摘する。

【影響と意義】

戦後高度成長期の只中に書かれた本書は、マルクス主義的な生産中心の社会分析を大きく転換させ、フランス現代思想の消費社会論・メディア論の起点となった。1980年代以降の文化研究やブランド論にも直接の影響を与えている。

【なぜ今読むか】

SNSでの自己演出、サブスクリプション、ブランドの盛衰、ミニマリズム論争など、現代のライフスタイルをめぐる議論の多くは本書の射程の中にある。自分の欲望を「記号の消費」として見直す鏡になる。

さらに深く

【内容のあらまし】

本書は三部構成で、消費社会という新しい秩序を多層的に解剖する。第一部の出発点は、現代生活を覆う「物の形式的な礼讃」である。スーパーマーケットの陳列、デパート、ハイパーマーケット、ドラッグストア。商品はもはや個別に欲望されるのではなく、無数の差異の体系として並べられ、選ぶこと自体が一種の儀礼となる。豊かさの神話は、欠乏の不安を解消するどころか、新しい欠乏を絶えず作り出す装置として作動している。

ボードリヤールはここで「使用価値・交換価値」の二項に「記号価値」を加える独自の枠組みを示す。商品の価値はもはや実用や労働量で計れず、それが社会のなかで占める差異的位置によって決まる。高級車を買う者は移動手段ではなく社会的地位を消費しており、ブランド服を着る者は布地ではなくスタイルを身にまとう。広告はこの記号体系の文法書であり、欲望そのものを規格化する装置となる。

第二部では消費の対象が次々と分析される。身体は美容と健康産業のなかで「もっとも美しい消費財」となり、女性誌や男性誌のグラビアは、自分の身体への投資という形の消費を煽る。余暇は労働の対極ではなく労働と同じ生産的義務になっており、休暇中も人は予定を埋め、写真を撮り、報告を書く。性さえも記号として消費可能なものへ整形される。テレビと広告が日常の細部にまで浸透するなかで、人間関係も「役柄」の交換となっていく。

第三部は批判編である。ボードリヤールは、ジョン・ケネス・ガルブレイスらが描いた「豊かな社会」像を批判的に引き継ぐ。豊かさは技術的進歩の自然な帰結ではなく、不平等の構造的な再生産装置である。労働者と経営者、若者と老人、男と女、先進国と途上国のあいだの差異は、消費の体系のなかで絶えず強化される。最後に彼は、こうした神話を内側から食い破る兆候として、若者の暴動や精神疾患、儀礼的な物の破壊行為を挙げる。マルクスが工場を分析したように、ボードリヤールはショッピングセンターを分析した。

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