貧
『貧困の克服』
ひんこんのこくふく
アマルティア・セン·現代
アジア発展を題材にしたセンの入門的講演集
哲学経済学開発
この著作について
ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・センが日本の一般読者に向けて構成した、四篇の講演からなる入門的著作。集英社新書として二〇〇二年に刊行され、潜在能力・人間開発・人間の安全保障といった鍵概念を、アジアの発展という具体的な文脈のなかで平明に語った書である。
【内容】
本書は、アジア通貨危機やインドの経済成長を背景に、経済発展を所得や成長率の指標だけで測ることへの強い疑問を出発点とする。人々が自分の人生を選び取る自由としての潜在能力(capability)の概念を平易に説明し、教育・医療・女性の地位・民主的な公共空間といった非経済的諸条件こそが発展の本質であると論じる。さらに、軍事的安全保障に偏らない「人間の安全保障」の理念を提示し、グローバル化の利益と不平等、文化の多元性と普遍的価値の両立、市場と民主主義の関係を、アジアの具体例に即して語る。
【影響と意義】
本書はセンの主著群(『不平等の経済学』『自由と経済開発』)の問題意識を日本語圏に橋渡しし、二十一世紀日本の国際協力・開発思想に強い影響を与えた。緒方貞子との共同議長報告書『安全保障の今日的課題』の理論的背景としても重要である。
【なぜ今読むか】
経済成長への疑念が広がり、ウェルビーイングや包摂が政策の主題となるなか、人間の自由を中心に据える発展像はますます切実な意味を持つ。センの思想に触れる第一歩として最良の一冊である。