排
『排蘆小船』
あしわけおぶね
本居宣長《もとおりのりなが》·近代
和歌の自律性を主張した宣長の最初の歌論
哲学文化・宗教
この著作について
本居宣長が京都遊学時代から松阪初期、宝暦の初年頃にかけて執筆した最初の歌論書である。生前未公刊で、宣長の没後に書写を経て伝わった。問答体で書かれ、若き宣長の問題意識が直接的に表れている点で特異な書物である。
【内容】
本書は「歌は何のために詠むか」という根本問いから始まる。宣長は「心に思ふことをいふ」が歌の本質であると定義し、和歌を政治的教化や道徳的訓戒の手段とする儒教的・仏教的解釈を退ける。文芸はそれ自体として自律した価値を持ち、心の動きを率直に表すことに歌の意義があると説く。後の「もののあはれ」論の出発点となる議論がすでにここに胚胎している。
【影響と意義】
国学における文芸論の方向性を定めた書物として位置づけられる。和歌や物語を、外的な目的に従属しない人間的真実の場として捉える発想は、近世日本の文芸観を大きく転換させた。明治以降の日本文学論や、坪内逍遥の小説論にもその影響を読み取ることができる。
【なぜ今読むか】
表現の意味を功利や教化に還元しがちな現代において、文芸の自律性を擁護する宣長の論は依然として鋭い。文学・芸術の存在理由を問い直すための原点として読み継がれるべきである。
著者
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