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『どこでもないところからの眺め』
どこでもないところからのながめ
トマス・ネーゲル·現代
主観と客観の往還を通じて自己と世界を問うネーゲルの哲学主著
哲学
この著作について
トマス・ネーゲル(Thomas Nagel)が1986年に刊行した哲学書(原題『The View from Nowhere』)。分析哲学の枠内で人称的主観と非人称的客観の緊張を主題化した、二十世紀後半の心の哲学・形而上学を代表する書物である。
【内容】
本書の中心命題は、人間が同時に二つの視点を往還しながら生きているというものである。一つは自分を世界の内側の一つの存在者《そんざいしゃ》として経験する主観的視点、もう一つは自分を含む世界全体を外側から眺めるかに見える客観的・非人称的視点(「どこでもないところからの眺め」)である。ネーゲルは客観性を徹底した科学主義的還元を退けつつ、主観の復権を素朴に擁護することも避ける。心身問題、自由意志、個人の死、倫理における人称性と非人称性、人生の意味といった問題群が、この二つの視点の緊張という共通の枠組みで論じられていく。先行論文「コウモリであるとはどのようなことか」で展開された主観的性格(qualia)の議論も本書の地盤を支えている。
【影響と意義】
分析哲学の心身二元論・自由意志論・倫理学・メタ倫理学の中心論争に大きな影響を与え、デイヴィッド・チャーマーズ、コリン・マッギン、デレク・パーフィット、バーナード・ウィリアムズらの議論の重要参照点となった。現代の人工意識論・主観性論の理論的土台も本書に負う部分が多い。
【なぜ今読むか】
AIが「視点を持たない知性」として浸透する時代に、「視点を持つとは何か」を正面から問うネーゲルの問題設定は、いよいよ切迫した現代的意義を帯びている。