『ソークラテースの思い出』
そーくらてーすのおもいで
クセノフォン·古代
弟子クセノフォンが伝える実践的なソクラテス像
この著作について
古代ギリシアの軍人・著述家クセノフォンが、師ソクラテスの言行を回想して記した『メモラビリア』(Apomnemoneumata)の邦訳である。
【内容】プラトン対話篇とは異なり、より日常的・実践的な場面でのソクラテスの教えが集成される。家政・友情・節制・徳の教育・国家への奉仕など、生活と社会に密着した倫理的助言が中心を占め、対話相手も政治家志望の若者から職人・娼婦まで多様である。プラトンが描く形而上学的なソクラテスとは対照的に、市井の知恵者・実践的助言者としてのソクラテス像が浮かび上がる。
【影響と意義】プラトン対話篇と並んでソクラテス理解の二大資料とされ、いわゆる「ソクラテス問題」をめぐる古代思想史研究の重要な手がかりとなってきた。岩波文庫の佐々木理訳のほか、光文社古典新訳文庫(相澤康隆訳, 2022)、京都大学学術出版会西洋古典叢書(内山勝利訳, 2011)など複数の邦訳が存在し、現代の読者の好みに応じて選べる。
【なぜ今読むか】哲学者を象牙の塔の住人ではなく、生活の場で問い続ける人物として描く本書は、哲学を生き方の技法として捉え直したい現代の読者にこそ響く一冊である。プラトンの理想化されたソクラテスと並べて読むことで、像の幅広さも見えてくる。
どの訳で読むか
訳者の解説と年譜、索引までそろった文庫で、ここに挙げた中でいちばん新しい訳を読むなら、光文社古典新訳文庫の相澤訳が目安になる。クセノフォンがソクラテスを描いたほかの3篇もあわせて読みたいなら全2冊の西洋古典叢書の内山訳がよく、書名がソクラテス言行録なのでその題で探すとよい。岩波文庫の佐々木訳は版元で品切れ(2026年10月時点)なので、図書館などで探すことになる。
佐々木理訳岩波書店・岩波文庫、1953年
Amazonで探す書名は『ソークラテースの思い出』で、著者名はクセノフォーンと表記される。文庫で310頁。版元のサイトでは品切れと表示されている(2026年10月時点)。
内山勝利訳京都大学学術出版会・西洋古典叢書、2011年
Amazonで探す書名はソクラテス言行録 1で、著者名はクセノポンと表記される。全2冊の第1冊で、第2冊には「家政管理論」「酒宴」「ソクラテスの弁明」の3篇が入る。四六判変型の上製本で312頁、月報がつく。版元のサイトに正誤表が置かれている。
相澤康隆訳光文社・光文社古典新訳文庫、2022年
Amazonで探す書名は『ソクラテスの思い出』。本文の前に訳者まえがきを置き、目次では各章に、その章の話題と、多くの章では対話の相手を示す見出しがつく。巻末に訳者の解説、年譜、訳者あとがき、索引を収める。CiNiiの書誌によれば、底本はバンディーニとドリオンが校訂したベル・レットル版である。電子書籍もある。版元は、同世代のプラトンとは異なる視点で描いた、もうひとつの「ソクラテスの対話」と紹介している。
さらに深く
【内容のあらまし】
全4巻からなる。クセノフォンは、告発者たちがどんな論法でソクラテスを死に値するとアテナイ人に信じさせたのか、何度も不思議に思ったと書き出す。第1巻の初めの2章は、ソクラテスは神々を信奉しなかったか、若者たちを堕落させたかという告発に一つずつ反論し、そのあと飲食や性の快楽をめぐるクセノフォン自身との対話へ移っていく。
第2巻は、徳の道と悪徳の道をめぐるアリスティッポスとの対話で始まり、そのなかでプロディコスが人々の前で語ってきたヘラクレスの話が紹介される。どちらの道を行くか静かな場所で思い悩むヘラクレスの前に、背の高い2人の女が現れる。一人は白い衣をまとい、もう一人は肌を実際より白く見せるよう飾っている。後者は、友は私を幸福と呼ぶが、憎む者は悪徳と呼ぶと名のる。白い衣の女は、神々は労苦なしには良いものを何ひとつ人間に与えなかったと語り、神々の好意を得たいなら神々に仕えよと説く。
同じ巻には、姉妹や姪、いとこが次々に身を寄せてきて、ひとつ屋根の下に14人もの自由人を抱えて困り果てたアリスタルコスが出てくる。ソクラテスと話したあと、彼が元手を工面して羊毛を買うと、親族の女たちは朝食の間も手を止めずに働き出す。ところが今度は、家で自分だけが働かずに食べている雄蜂だと責められると彼がこぼすので、ソクラテスは犬の寓話を聞かせてやればよいと応じる。羊が、何も生まない犬にだけ主人が食べ物を分けると不平を言うと、犬は、自分が見張っているからこそ羊は人に盗まれも狼に襲われもしないのだと答える。
第3巻は、将軍の務めや騎兵隊長の心得をめぐる章から始まる。やがて、20歳にもならないうちから国の指導者になろうと、演説を始めずにはいられなくなったグラウコンが登場する。ソクラテスが国の歳入は今どこからいくら入っているのかと尋ねると、グラウコンは歳出も軍備も鉱山も調べておらず、まず叔父の家を豊かにしてみよと言われる。
第4巻では、名高い詩人や知者の書物を集め、それだけで同輩より賢いと思っているエウテュデモスが相手になる。正義をめぐる問いで答えが二転三転して絶望した彼に、ソクラテスは、デルフォイに行ったことはあるかと問う。二度行ったと答える彼に、神殿の「汝自身を知れ」の銘に気づいたかと重ねて問うと、自分のことなら知っているつもりで気に留めなかったと言う。最終章は、判決のあとの30日間もふだんどおりに過ごしたソクラテスを描き、ヘルモゲネスから聞いた話を添える。弁明の準備ならこれまでの生涯ずっとしてきたと言い、弁明を考えようとするたびに神霊が反対したと語る。
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