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『マルクス・アウレリウス「自省録」 精神の城塞』

まるくす・あうれりうすじせいろくせいしんのじょうさい

荻野弘之《おぎのひろゆき》·現代

ストア派研究の第一人者による『自省録』入門

哲学入門

この著作について

古代哲学研究者・荻野弘之《おぎのひろゆき》が、ローマ皇帝マルクス・アウレリウスの『自省録』を、ストア派思想史の文脈に置き直して読み解いた入門書。岩波現代全書として刊行された。

【内容】

本書は『自省録』を皇帝の私的覚え書きとしてだけでなく、ヘレニズム以来のストア派の精神修練の伝統に連なる実践書として読み直す。第一巻の感謝の系譜から、世界市民主義、宇宙の理性的秩序(ロゴス)、表象の吟味、印象と判断の区別、徳と幸福の同一、運命愛、死の受容といった主要主題を順に取り上げる。エピクテトス『提要』、セネカ『書簡集』との対比を通じて、自省録独自の凝縮された語り口の意味が浮き彫りになる。タイトルの『精神の城塞』は、外的な動揺にさらされながらも内面に確保すべき静謐の比喩として用いられる。

【影響と意義】

ピエール・アドの『内面の砦』をはじめとする現代のストア研究に通じる視角を、日本語で平易に提示した点で評価が高い。長く岩波文庫の神谷美恵子《かみやみえこ》訳と並ぶ案内役として読み継がれている。

【なぜ今読むか】

ストレスや不確実性に揺さぶられがちな日々において、判断を自分の内側に取り戻す技法としての『自省録』の魅力を、思想史的な背景とともに味わえる。「コントロールできるものとできないもの」を区別する古代の知恵が、抽象論ではなく日常の作法として手に取れる。

さらに深く

【内容のあらまし】

2009年に岩波書店の「書物誕生 あたらしい古典入門」の一冊として出た本で、版元は、国事多難の時代に長く陣営で過ごしたマルクス帝の私的な手記を、ストア哲学の主題が転調しながら反復・展開する変奏曲として味わい、人生における読書の意味も考える本だと紹介している。構成は二部に分かれる。第1部「書物の旅路」はテクストがどう生まれ、どう読まれてきたかをたどり、第2部「作品世界を読む」は、自己との対話として書かれたテクストの内側に分け入る。

第1部は「生きられたストア主義」の章で始まり、皇帝の生涯とその時代、エピクテトスの思想、ストア派が後の時代にどう賞讃され、共感され、批判されてきたかへと進む。『自省録』の第1巻には、師ルスティクスが手元にあったエピクテトスの講話の記録を見せてくれたことへの感謝が書かれている。

続く二つの章は、『自省録』という書物そのものを扱う。一つめは成立の謎と写本の伝わり方、翻訳の歴史を、二つめは誰のために、何のために書かれたのかという問いを掲げる。この書物は本来の題名がわかっておらず、1558年にチューリヒで最初の刊本を出したクシランダーが使った写本も、今はどこにあるかわからない。第1巻と第2巻の終わりには、それぞれクァディ族の地のグラヌア河畔、カルヌントゥムという地名の書き込みが添えられている。第1部の終わりには補論として、目に見える皇帝の姿をたどる「皇帝のイコン」が置かれる。

第2部はまず、文体とその思想の関係を取り上げる。続いて、苦悩する魂とその救済という角度から書物の宗教性を問い、観照と実践、規則の変奏という観点から哲学の理念を考える。さらに、精神の訓育を、想像力の開花と書くことの意味から論じる。『自省録』第8巻48節には、情念から自由な精神は城塞であり、人にはこれより安全な逃げ場はないという一節がある。書名の「城塞」を思わせる比喩である。

最後の章は、謎とされる第1巻をどう読むかを問い、徳目の博物館、回想と自伝という見方を副題に掲げる。第1巻は、祖父ウェルスから良い品性と怒りを抑えることを学んだという書き出しから、家族や師から受けたものを一人ずつ書き留め、第17節で神々への感謝に至る。本の終わりには16ページにわたる参考文献と、皇帝の関連年譜が付く。

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