正
『正しい戦争と不正な戦争』
ただしい せんそうと ふせいな せんそう
マイケル・ウォルツァー·現代
正戦論の伝統を現代的に再構築し、戦争の開始と戦闘行為を道徳的に評価する基準を体系的に論じた政治哲学の重要著作
哲学
この著作について
プリンストン大学の政治哲学者マイケル・ウォルツァーが、ベトナム戦争への反省を踏まえて正戦論(just war theory)を現代的に再構築した政治哲学の主著。
【内容】
本書は古来の正戦論を「戦争に訴えることの正義(ユス・アド・ベルム)」と「戦争遂行における正義(ユス・イン・ベロ)」に大きく分ける。前者では、主権侵害への自衛、先制攻撃と予防戦争の区別、人道的介入、第三者の支援といった論点が吟味される。後者では、非戦闘員免除、軍事的必要性、比例性、「最高緊急事態」における民間人攻撃の例外的許容可否といった規範が議論される。第一次・第二次世界大戦、ミュンヘン会談、独ソ戦、広島・長崎の原爆、ベトナム戦争、ホロコースト、テロリズムなど、豊富な歴史的ケースが丁寧に分析される。
【影響と意義】
リアリズムとパシフィズムの両極を退け、戦争に道徳的言語を取り戻した点で画期的である。冷戦後の人道的介入論、対テロ戦争、ウクライナ戦争をめぐる国際世論の議論は、いずれも本書の枠組みと語彙を再利用しながら展開されている。
【なぜ今読むか】
「戦争は絶対悪だ」「国際政治に道徳は通じない」のいずれにも留まらない、第三の語り方で戦争を考える道具を与えてくれる。報道に揺さぶられがちな日々に、倫理と現実を同時に見据える視座を整えてくれる書である。