一
『一遍《いっぺん》上人 旅の思索者』
いっぺんしょうにんたびのしさくしゃ
栗田勇《くりたいさむ》·現代
一遍の生涯を聖絵を通じて辿る文学的評伝
哲学仏教日本思想史
この著作について
文芸評論家の栗田勇《くりたいさむ》が鎌倉時代の遊行聖《ゆぎょうひじり》一遍の生涯を、国宝『一遍聖絵』の精緻な読解を通じて描き出した文学的評伝である。1977年新潮社刊、2000年に新潮文庫に収められた。1977年度芸術選奨文部大臣賞受賞作。
【内容】
伊予の豪族河野氏の出として生まれた一遍が、出家・修行を経て熊野権現の啓示を受け、踊り念仏を引き連れて全国を遊行するに至る軌跡が、弟子聖戒の編んだ『一遍聖絵』の各場面と対話しながら辿られる。栗田は絵巻の風景描写と一遍の和歌・語録を重ねて読み、捨ててはまた捨て、定住を拒んで歩み続ける思索者の姿を浮かび上がらせる。文学的鋭敏さと宗教史への目配りが融合した筆致が魅力だ。
【影響と意義】
学術書とは異なる、エッセイと評伝の中間に立つ書物として一遍像を一般読者に開いた功績は大きい。鎌倉新仏教の系譜のなかで、独立独歩の宗教者一遍を独自の照明で照らし出す枠組みは、その後の一般向け一遍論に大きな影響を与えた。
【なぜ今読むか】
所有を捨て関係を結び直しながら旅を続ける生き方は、定住と所有を前提とする現代の感覚を根底から問い直す。日本仏教の異色の系譜に触れ、自分の立つ場所を考えるための一冊だ。
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