『エデンの東』
えでんのひがし
ジョン・スタインベック·現代
カインとアベルの物語を20世紀アメリカで再演するスタインベック自伝的大作
この著作について
アメリカの作家ジョン・スタインベックが1952年に公刊した長編小説。旧約聖書『創世記』のカインとアベルの兄弟相剋を、19世紀末から第一次世界大戦までのカリフォルニアを舞台に二世代にわたって再演する、スタインベック最大の代表作である。
【内容】
コネティカットからカリフォルニア州サリナス・ヴァレーに移住したトラスク家二世代の物語。父アダム・トラスクとその妻キャシー(悪と化す女性)の破局、そして双子の兄弟アロンとキャルの対立を、聖書のカインとアベルの構造に重ねて描く。中国人使用人リーが『創世記』4章の「汝、治めるべし(timshel)」の解釈をめぐって哲学的議論を展開する章は、本書の思想的中核とされる。スタインベック自身の家族史も物語に織り込まれる。
【影響と意義】
1952年ベストセラーの第一位を記録、翌1953年のスタインベックのノーベル文学賞受賞の要因の一つとなった。エリア・カザン監督の映画版(1955)でジェイムズ・ディーンが主演し、20世紀アメリカ文化の象徴となった。
【なぜ今読むか】
さらに深く
【内容のあらまし】
語り手の「私」は、サリナス・ヴァレーで育った日々から書き起こす。東には明るいガビラン山脈、西には暗いサンタルシア山脈。そこへアイルランドから語り手の祖父母サミュエルとライザ・ハミルトンがやって来て、谷でいちばんやせた土地に住みつく。サミュエルは水脈を探し当てる力を持ち、九人の子を育てる。
舞台はコネチカットへ移る。南北戦争で入隊してすぐ片脚を失ったサイラス・トラスクには、温厚なアダムと異母弟チャールズがいる。父がアダムの贈った雑種の子犬を喜び、チャールズが贈ったナイフには見向きもしないので、チャールズは兄を気を失うまで殴りつける。アダムは父の手で軍隊に入れられ、戦歴を偽った父は、軍事の研究で学識を買われてワシントンの要職に就く。天使の顔をした少女キャシー・エイムズの生い立ちも語られる。両親もろとも家を焼いて姿を消した彼女は、売春組織を営む男に囲われたあげく半殺しにされ、兄弟の家の裏口で見つかる。アダムは看病の末に結婚するが、初夜、キャシーは夫に薬を飲ませてチャールズの寝床へ行く。
カリフォルニアへ移ったアダムは、サミュエルと水のある土地を探し、ここに庭をつくると語る。だがキャシーは双子を産むと、引き止める夫を撃って出ていく。サリナスの売春宿でケイトと名乗った彼女は、女主人フェイに娘のように頼られ、やがて毒を盛って店を手に入れる。アダムは一年以上も双子に名前をつけない。サミュエルは彼を殴って目を覚まさせ、中国系の使用人リーを交えた三人はカインとアベルの物語を語り合い、子らをカレブ(のちのキャル)とアロンと名づける。
十年後、リーは、サンフランシスコの中国人の学者たちがヘブライ語を学んで得た答えを語る。神がカインに告げた言葉は、罪を治めるだろうという約束でも、治めよという命令でもなく、ティムシェル、つまり治めることもできる、だった。死期を悟ったサミュエルは、キャシーがサリナスで売春宿を営んでいるとアダムに打ち明ける。ハミルトン家に死が続いたあと、第34章で語り手は物語を止め、人間は善と悪の網にとらわれており、世界にはこの物語しかないと書く。
サリナスの町に移った双子は、すぐ友だちのできるアロンと、友だちはいないが皆に恐れられるキャルに分かれていく。アロンは少女アブラと夫婦のように呼び合う。父が冷蔵に入れ込み、レタスを鉄道で東部へ送る事業に失敗すると、一家は町の笑いものになる。夜の町をさまようキャルは、母が売春宿の女主人だと突きつけられる。やがてキャルは父の損失を取り戻そうと、サミュエルの息子ウィルと組んで豆の取引に乗り出す。儲けた金を、感謝祭の日に父へ贈ろうと決める。