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孫子

そんし

孫子·古代

戦略思想の古典にして最高峰

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政治

この著作について

春秋末期の軍事思想家・孫武《そんぶ》に帰せられる、世界最古にして最も影響力のある兵法書。「戦わずして勝つ」を理想とする、冷徹で合理的な戦略論である。

【内容】

全13篇、わずか6000字ほどの簡潔な書物。戦争を国家の存亡を左右する大事として扱い、勢いに任せた開戦を厳しく戒める。最良の勝利は戦闘そのものを避けて敵を屈服させることだとし、敵と自分を正確に知ること、地形と情報を活かすこと、正攻法と奇策を状況に応じて切り替えることを説く。「兵は詭道《きどう》なり」、つまり戦いとは欺きの術であるという言葉に、その現実主義が凝縮されている。

【影響と意義】

東アジアの軍事思想の背骨をなしただけでなく、ナポレオン毛沢東《もうたくとう》が愛読したと伝えられ、第二次大戦後は欧米の戦略研究にも取り込まれた。現代ではビジネス戦略や交渉術、スポーツ戦術にまで応用の幅が広がっている。

【なぜ今読むか】

感情や正義感で突っ走らず、状況を冷静に見極めて最小の犠牲で目的を果たす発想は、仕事や人間関係の場面にもそのまま効く。短く、繰り返し読める太さが魅力である。

さらに深く

【内容のあらまし】

第一篇の計篇は、戦争を「国の大事、死生の地、存亡の道」と位置づける重い宣言から始まる。開戦するかどうかは五事つまり道・天・地・将・法の五要素と七計つまり君主の徳、将の能力、天地の利、軍紀、兵の強さ、訓練度、賞罰の明確さで冷静に判定せよと説く。勝てる見込みが立たないなら戦うなということだ。続く作戦篇は戦費の重さを論じ、長期戦の愚かさを強調する。「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹ざるなり」、つまり多少粗くても早く決着させる方が、巧妙でも長引く戦より優れているという。

謀攻篇でいよいよ「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という核心が示される。最上は敵の謀略を破ること、次は外交を断つこと、次は兵を破ること、最下が城攻めだと序列がつけられる。形篇・勢篇・虚実篇は組み合わせて読むべき三部作で、自軍を「形」のないところに置きつつ敵の虚を突けと説く。水のように地形に応じて形を変える軍が理想として描かれる。

軍争篇から地形篇までは、行軍の段取り、兵糧、地形の九類型などが実務的に語られる。九変篇では将軍が陥りやすい五つの危険として、必死・必生・忿速・廉潔・愛民を挙げ、徳目さえ過剰になれば敵に利用されると警告する。徳が必ずしも勝利に直結しないという冷たい認識が貫かれている。

最後の用間篇は情報戦に充てられる。間者を郷間・内間・反間・死間・生間の五種に分類し、最高の指揮官は最も金をかけて間者を運用すると断言する。爵禄百金を惜しんで敵情を知らないようでは、将ではないと厳しい。冒頭の慎重さから末尾の情報重視まで、本書の論調はぶれない。戦いを避けることが最善であり、避けられぬなら勝ち目を整えてから動けという、徹底した合理主義の書である。

著者

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