道
『道草』
みちくさ
夏目漱石·近代
夏目漱石の自伝的小説
哲学
この著作について
夏目漱石が自らの幼少期と英国留学からの帰国後の私生活をほぼそのまま素材にした、ただ一つの自伝的長編。
【内容】
主人公の健三は洋行帰りの学者で、日々の講義と書斎仕事に追われている。そこへかつて自分を養子に取った島田という老人が、借金を無心するように現れては消えを繰り返す。養父母の過去の思惑、実家との気詰まりなやり取り、妻お住との冷たい沈黙と些細な衝突、幼い娘たちの病、そして自分自身の神経衰弱が、乾いた筆致で描かれる。「金を渡せば縁が切れる」と思っても、関係は何度も形を変えて戻ってくる。人との縁は清算できないという重い認識のうちに、物語は何の解決もないまま閉じられる。
【影響と意義】
虚構の人物を立てずに自らの生活を素材にする方法は、それまでの漱石作品にはほとんどなく、日本の私小説的文学の射程を広げた点で重要とされる。明治知識人の家族・金銭・親族の関係を赤裸々に記録した一次資料的価値も高く、漱石研究における基本文献の一つである。
【なぜ今読むか】
親の介護、遺産、親族の借金、夫婦の冷戦など、現代でも断ちきれない家族のしがらみは形を変えて続く。清算しきれない人間関係の重みを言葉にしてくれる小説として、静かな慰めと覚悟を与える書物である。
著者
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