『雇用・利子および貨幣の一般理論』
こよう りしおよび かへいの いっぱん りろん
現代
政府の積極的な経済介入を理論的に基礎づけたケインズ経済学の主著
この著作について
ジョン・メイナード・ケインズが世界恐慌下の1936年に公刊した、20世紀経済学の最重要著作。
【内容】
古典派経済学が前提とする「供給はそれ自身の需要を創り出す(セイの法則)」を真っ向から否定し、不況期には有効需要(実際に裏づけのある購買意欲)の不足が失業を生むと論じる。所得・雇用・投資を結ぶマクロ経済モデルを構築し、人びとが現金を手元に残しておきたがる「流動性選好」、経済主体の気分を表す「アニマル・スピリット」といった概念を導入し、R・F・カーンの着想をもとに、投資が所得の何倍もの波及効果を生む「乗数効果」を理論の前面に押し出す。政府による財政支出と金融政策を通じた景気調整の必要性が、理論的に基礎づけられた。
【影響と意義】
世界恐慌からの脱出、第二次大戦後の資本主義諸国の経済政策の基盤となり「ケインズ革命」と呼ばれた。新自由主義の台頭で一度は影を潜めたが、2008年の金融危機後に再び再評価され、現代のマクロ経済政策、特にコロナ禍の大規模財政出動の背景思想としても生き続けている。
【なぜ今読むか】
短期的な現実への対処を重視する実践的な姿勢が特徴。経済ニュースを解像度高く読むための、いまなお必須の古典。
さらに深く
【内容のあらまし】
序文でケインズは、本書が主に同業の経済学者に向けたものだと断る。彼が挑むのは、市場は放っておけば完全雇用に向かうとする古典派の中心ドグマである。1930年代の大量失業は、その理論に明らかに背いていた。
第一編で論敵が定式化される。供給はそれ自身の需要を作るというセイの法則は、貯蓄が必ず投資に回り、利子率が両者を一致させるという前提に依存している。所得のうち消費されない部分が、確実に投資される保証はない。投資は将来への期待に左右されるからである。
第3章で有効需要の原理が中心に据えられる。雇用量を決めるのは、企業が販売できると見込む需要、すなわち有効需要である。第三編では消費性向が論じられる。所得が増えても、増分の一部しか消費に回らない。この消費性向が低ければ、雇用が増えるためにより多くの投資が必要になる。
同じ第三編の第10章で乗数効果が示される。新しい投資は最初の受け取り手の所得となり、その一部が消費され、別の人の所得となり、さらに次へと連鎖する。最終的な所得増加は最初の投資の何倍にもなる。掘っては埋めるだけの公共事業ですら連鎖を起動できる、という有名な議論もここにある。
第四編で利子率の決定が論じられる。利子率は古典派が考えるように貯蓄と投資のバランスで決まるのではなく、流動性選好と貨幣供給によって決まる。人びとは不確実さに備えて現金を持ちたがる。この欲求の強さと中央銀行の供給量との折り合いが利子率を作り、それが投資の規模を方向づける。
第五編で物価と賃金の動きが論じられる。名目賃金を引き下げても雇用が回復するとは限らない。完全雇用に達したあとの需要の増加は、物価の上昇(真のインフレ)となって現れる。
第四編には、長期期待を扱う第12章もある。投資判断は厳密な計算ではなく、商人や企業家のアニマル・スピリッツに支えられているとされる。証券市場は美人投票に似ており、自分が美しいと思う候補ではなく、他人が美しいと思いそうな候補に賭ける場として描かれる。
結部でケインズは政策的含意を提示する。完全雇用を実現するには、民間投資の不足を補う公共投資、利子率の管理、所得再分配を通じた消費性向の引き上げが必要である、と。本書は、経済学者や政治哲学者の思想こそが良くも悪くも世界を動かす、という一節で閉じられる。
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