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アメリカのデモクラシー

トクヴィル·近代

民主主義の可能性と危険を分析した政治学の古典

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政治

この著作について

若きフランス貴族トクヴィルが1831年に約9ヶ月にわたりアメリカを旅し、その観察をもとに1835年と1840年の2巻に分けて公刊した政治学の名著。

【内容】

誕生まもないアメリカ合衆国を外からの目で観察し、民主主義がもつ長所と危険を多角的に分析する。平等化の不可逆的な進行を指摘しつつ、「多数者の専制」、すなわち多数派が世論や慣習を通じて少数派の意見と個性を圧迫する危険を警告した。同時に、結社の自由、地方自治の伝統、宗教の役割、法律家の保守的機能など、民主主義を健全に機能させる条件を探った。第2巻では、民主社会における個人主義の進行と、そこに忍び込む「ソフトな専制」への警鐘が鳴らされる。

【影響と意義】

平等化と自由は両立するのか、という近代政治学の中心問題を最初に明示した書物となった。民主主義研究の最重要古典として、政治学・社会学・公共哲学でいまも広く参照される。J.S.ミル自由論(ミル)の問題意識にも直接繋がっている。

【なぜ今読むか】

SNSにおけるエコーチェンバーや同調圧力の問題を考えると、トクヴィルが約200年前に指摘した「多数者の専制」の洞察が驚くほど正確であったことに気づかされる。自由と平等の危うい均衡を考えるための定番。

さらに深く

【内容のあらまし】

第1巻の冒頭でトクヴィルは、アメリカ社会の根本事実は条件の平等だと宣言する。彼は1831年から32年にかけて、刑務所制度視察の名目でアメリカを9ヶ月旅した。ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアから五大湖、ミシシッピ流域、ニューオリンズまで足を延ばし、政治家・牧師・農場主・先住民・奴隷と話している。その観察が下敷きになっている。

第1巻の前半は地理と歴史から始まる。ニューイングランドのタウンミーティングが詳細に描かれ、地方自治こそアメリカ民主主義の土台だと位置づけられる。住民は身近な道路や学校の問題を自分の手で議論し決定する。この習慣が政治への参加意識と公共精神を育てている、というのがトクヴィルの診断だ。続いて連邦と州の関係、議会、大統領、司法権と陪審制度、政党と新聞が分析される。

後半では制度を支える「習俗」が論じられる。プロテスタンティズムが平等と自由を相互に支える宗教的基盤になっていること、結社が個人と国家のあいだに緩衝帯を作っていること、女性の家庭内の地位がアメリカ的勤勉を支えていることなどが、比較社会学の精度で描かれる。同時に、奴隷制は遅かれ早かれ大きな災厄を招くと、南部の調査をもとに警告される。

第2巻はより抽象的・哲学的になる。平等な社会で人びとは具体的特徴を捨てた一般観念を好むようになり、宗教は普遍的で簡素な信仰へ向かうと論じられる。芸術や文学にも平等の影響が及ぶ。終盤で示されるのが有名な「ソフトな専制」の予兆である。一人ひとりは自分の小さな楽しみに没頭し、上方には公正で柔和な巨大権力がそびえ、生活を細部まで世話し続ける。人びとは羊の群れのような穏やかな従属に滑り落ちていく。自由の習慣を維持しつづけることだけが、その滑落を止めるとトクヴィルは結ぶ。

著者

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