『幸福論(ラッセル)』
こうふくろん(らっせる)
ラッセル·現代
不幸の原因を分析し幸福への具体的な道を示した名著
この著作について
数理論理学者にしてノーベル文学賞受賞者バートランド・ラッセルが1930年に公刊した、哲学者による人生論の名著。
【内容】
二部構成。前半「不幸の原因」では、競争心、退屈、疲労、嫉妬、罪悪感、被害妄想、世評への恐れといった、人びとを不幸に追いやる要素がひとつずつ分析される。後半「幸福の原因」では、情熱、愛情、家族、仕事、人間への関心、努力とあきらめのバランスといった、幸福の源泉が論じられる。幸福は受動的に待つものではなく、自らの態度と行動によって築き上げるものだという実践的な立場が全編を貫く。
【影響と意義】
数理論理学やリベラルな政治活動で知られるラッセルが、日常的な幸福を具体的に語っているのが本書の特徴。アランやヒルティの幸福論と並んで「三大幸福論」の一つに数えられ、自己啓発書のジャンルにおける古典として読まれ続けている。
【なぜ今読むか】
「嫉妬は民主主義の基礎にある感情」「疲労の大部分は心配から来る」など、常識的でありながら深い洞察が随所にちりばめられている。日常に疲れたときに、気張らずに手に取れる古典。
さらに深く
【内容のあらまし】
本書は二部構成で、前半「不幸の原因」と後半「幸福の原因」が、それぞれ十前後の短い章に分かれている。冒頭でラッセルは、自分自身もかつては自殺さえ考えるほど不幸だったが、考え方と生活の習慣を変えることで幸福を取り戻したと打ち明ける。そして本書はその経験から、不幸を取り除き幸福を築くための具体的な処方箋を示すものだ、と宣言する。
前半でまず槍玉に挙げられるのは、現代人特有の競争心である。ラッセルは、競争を目的それ自体にしてしまった人間が、勝っても虚しく、負けても惨めになる仕組みを描く。続いて退屈と興奮の章では、刺激を求めて疲弊する都市生活者の姿が、適度な静けさを失った現代の宿痾として批判される。疲労の章では、肉体的な疲労よりも心配や神経的緊張による疲労のほうがはるかに有害だ、という洞察が示される。
中盤に置かれた嫉妬と罪悪感の章は本書の白眉である。嫉妬は民主主義の基礎にある感情だが、近所の誰かではなくはるか遠くの華やかな人物と比較してしまう現代の習慣は、嫉妬を病的にする。罪悪感の多くは幼児期に植えつけられた非合理な信念の残滓であり、それを意識化して書き換えることが、自由な生の前提となる。被害妄想と世評への恐れの章も、自分を中心に世界が回っているという錯覚を解くための処方として書かれる。
後半では、幸福を支える要素が次々と挙げられる。情熱、愛情、家族、仕事、人間への関心、努力とあきらめのバランス。なかでも印象深いのは「外向きの関心」という鍵概念である。星でも歴史でも他人でも、自分自身以外のものに本気で興味を持てる人だけが、長く幸福でいられる。幸福は天から降ってくるのではなく、自分の心の方向を内から外へ向け変えることで、少しずつ手元に育てていくものだ、というのが本書の一貫した主張である。
著者
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