フ
『ファスト&スロー』
ダニエル・カーネマン·現代
二重過程理論で人間の認知バイアスを解剖した行動経済学の決定版
心理経済
この著作について
ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)が2011年に刊行した行動経済学の決定版(原題『Thinking, Fast and Slow』)。2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン自身による生涯の研究の総決算であり、一般読者向けのベストセラーとして世界で数百万部が読まれた著作である。
【内容】
本書の鍵は、直観的・自動的に判断するシステム1と、熟考を要する低速なシステム2という二重過程理論である。日常のほとんどの判断はシステム1が代行するが、その素早さはアンカリング、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、確信バイアスといった系統的な錯誤を生む。カーネマンは故エイモス・トヴェルスキーとの共同研究を軸に、プロスペクト理論、損失回避、フレーミング効果、後悔回避、ピークエンド法則など、多数の実験結果を分かりやすく物語る。後半では、経済判断における専門家の過信、幸福と満足の二つの自己(経験する自己と記憶する自己)の乖離といった応用主題が展開される。
【影響と意義】
行動経済学、ナッジ理論、医療意思決定、公共政策、投資行動、司法判断の領域で標準的な参照文献となった。ダン・アリエリー、リチャード・セイラー、キャス・サンスティーンらの仕事と並び、二十一世紀の意思決定研究の基礎を形作っている。
【なぜ今読むか】
情報過多と生成AIの誘惑が合理的判断を試す時代に、自分の思考の癖を内側から点検する手がかりとして、本書はなお最高の入門書である。