増
『増壹阿含経』
ぞういちあごんきょう
古代
教えを一から十一までの数ごとに並べた初期仏教の経典集。漢訳の四阿含の一つで、4世紀末に訳された
仏教経典
この著作について
初期仏教の経典を漢訳した四つの阿含経《あごんきょう》(長・中・雑・増一)の一つで、51巻からなる経典集である。パーリ語経典の増支部に対応し、共通する箇所も多いが相違点もある。
【内容】
一から始めて二、三と数を増やし、十一までの法数《ほっすう》(数でまとめた教えの項目)に従って、さまざまな教説を並べる。全体は序品から大愛道般涅槃品まで52の品(章)に分かれる。巻18に収める経の一つは、すべての作られたものは無常である、苦である、無我である、涅槃《ねはん》は安らぎである、という四つの法の本末を説き、一切諸行苦《いっさいしょぎょうく》の句もそこに見える。
【影響と意義】
4世紀末に漢訳され、大蔵経では東晋の僧伽提婆《そうぎゃだいば》の訳とされてきたが、文体の分析から竺仏念《じくぶつねん》の訳とみる研究もある。伝えた部派を大衆部《だいしゅぶ》とする説がある一方、その根拠を疑問視する見方もある。菩薩や六波羅蜜《ろくはらみつ》といった大乗的な語が混じる点も、部派の違いか、伝承の誤りによる混入か、後の増補かをめぐって議論が続く。漢訳の四阿含は、パーリ語のニカーヤとともに、ブッダと初期仏教の思想を知るための基本資料とされる。
【なぜ今読むか】
一切皆苦という四字の定式の背後に、どのような経文があるのかを確かめられる。阿含とは代々伝えられてきたものを意味し、教えを数で整理した本書の形には、伝承の中で形づくられた仏典の姿が表れている。有名な句を出典にさかのぼって読むための手がかりになる。